夢をみているとき、夢をみているのだとわかる瞬間がふとある。
それは決まって、しあわせな夢をみているときで、そういうとき、いつか目が覚めてしまうのだとわかってしまってひどく虚しくなる。
だから私はできれば、しあわせな夢なんか見たくない。
*
真夜中に差し掛かる前、一日の用事がすべて終わり、オレンジ色の間接照明に包まれた部屋で、蒼の入れてくれた深入りの珈琲を飲む。
これは二人で暮らすようになってできた、晩酌タイムみたいなものだ。
「最近、夜遅くまで起きているけど、何してるの?」
珈琲をすすりながら、蒼が訊く。
「あ、えっと……小説、書いてるんだ」
「小説? 投稿でもするの?」
「あ、うん。ほら、結婚したら、何かと忙しくなるでしょ。だから、最後に新人賞に応募してみようかと思って」